移植の流れ
① 移植適応の判断
まず患者さんのご病状について多職種で十分に検討を行い、年齢や、疾患、病状、体の機能などを考慮の上、移植治療が適切かどうか判断します。
移植担当医
診療科全体のカンファレンスで、移植治療が本当に必要か、移植以外の治療法はないのか、安全に移植を受けて頂けるのかなどを、これまでの治療経過や検査データ、診察所見などから総合的に判断します。
HCTC(造血細胞移植コーディネーター)
患者さん・ご家族への移植の説明から、移植治療を受ける意思決定の支援、移植の準備・移植中の支援、移植後のフォローアップまで円滑かつ公正に移植を実現するため、継続的な調整と支援を行う専門職です。
② 移植前化学療法
造血器腫瘍(「血液がん」)に対して移植を行う場合には、移植後の再発を防ぐため、多くの場合、化学療法(「抗がん剤治療」)により腫瘍細胞を可能な限り減らしておきます。
診療担当医
診療科全体で検討の上、それぞれの患者さんのご病状に応じたもっとも適切な化学療法を行います。
薬剤師
適切な化学療法を実施するため、医師・看護師と協力し、治療に必要な薬剤の説明を行います。
歯科医師・歯科衛生士
化学療法や移植を受けるためには、口腔内を清潔に保つことが重要です。定期的に口腔衛生指導を行うとともに、口内炎を中心とした合併症の対策・対応も行います。
③ ドナーコーディネート(同種移植の場合)
同種造血幹細胞移植を行うため、患者さんと適合した白血球の型(HLA)をもつドナーを探し、最終的に移植が行われるまで調整する過程をドナーコーディネートと呼びます。主治医とドナー担当医師、HCTCにより、病状等に合わせて適切なドナーソース(骨髄・末梢血幹細胞・さい帯血)を選択し、移植の実現に向けて円滑にコーディネートを進めていきます(数週間から数ヶ月)。
HCTC(造血細胞移植コーディネーター)
患者さんや血縁ドナー候補の方、それぞれのご家族の不安が少しでもなくなるように支援を行います。主治医や骨髄バンク・さい帯血バンクと連携して、円滑なコーディネートに務めます。
移植担当医
患者さんに適したドナーソースの選定を行います。患者さんの病状に合わせながら適切な移植時期・移植方法を検討します。
④ 造血幹細胞の採取
自家末梢血幹細胞の採取
化学療法や白血球を増加させる薬(G-CSF)を用いて患者さん自身の造血幹細胞を採取します。幹細胞採取には「血液成分分離装置」という特別な医療機器を用います。
臨床工学技士
安全に採取を行えるよう機器をセットアップします。採取中は患者さんの負担にならないように気を付けながら、効率よく採取を行っていきます。
同種造血幹細胞の採取
◎骨髄採取
ドナーの方に入院していただき、腸骨(骨盤の骨)から専用の針で骨髄液を採取します。全身麻酔下で行います。
◎末梢血幹細胞採取
ドナーの方に白血球を増加させる薬(G-CSF)を投与し、末梢血中に造血幹細胞を動員し、血液成分分離装置を用いて、造血幹細胞を採取します
⑤ 移植病棟へ入院
主治医とともに移植病棟看護師、リハビリテーションチームや緩和ケアチーム、薬剤師、栄養士など多職種から成るチームで診療にあたります。
移植担当医
移植の詳細なスケジュール、使用される薬剤など説明を行います。
看護師
受け持ち看護師が中心となり、移植治療中の生活や症状などについて説明をします。事前に移植病室(クリーンルーム)の案内も行います。
薬剤師
移植前処置に使用する薬剤や治療スケジュール、副作用等について分かりやすい資料を用いて説明を行います。
リハビリテーションチーム(作業療法士・理学療法士)
お体の状態に合わせ、移植前よりリハビリテーションを開始しています。
移植前、前処置中、血球減少期、生着後、退院後まで継続的にリハビリテーションを行うことで、体力低下に伴う合併症予防、筋力の廃用予防、退院後の生活の質の改善、さらに社会復帰の促進が可能となります。
管理栄養士
入院時から退院まで継続して総合的な栄養評価を行い、患者さん一人一人に合った適切な栄養バランスに配慮した食事と栄養サポートを適宜行います。
緩和ケアチーム
緩和ケアチームはがん治療専門医、精神科医、臨床心理士、麻酔科医、緩和専門ナースなどから構成されるチームです。移植中は、前処置による粘膜障害など様々な身体的な苦痛を感じることがあります。前処置開始前より訪室し、身体的な症状、時に精神的な症状に関して、薬物療法、カウンセリングなどを通じて患者さんの様々な症状の軽減を図ります。
⑥ 移植前処置
移植の実施に先立ち「前処置」と呼ばれる大量の抗がん剤や全身に対する放射線治療(全身放射線照射)を行います(約1週間)。前処置には2つの役割があり、血液がんの細胞を出来るだけ減少させることに加え、ドナーの細胞を受け入れやすくするため、患者さん自身の免疫力を一時的に抑えることが目的となります。それぞれの患者さんごとのご病状に合わせ、移植チーム全体で十分に吟味を行い、最適な前処置方法を決定します。
⑦ 造血幹細胞移植
前処置が終了した1〜2日後に、造血幹細胞を点滴(骨髄・末梢血幹細胞)もしくは注射(さい帯血)で輸血などと同じように移植します。通常は体内の太い血管に挿入したカテーテル(中心静脈カテーテル)を利用します。
⑧ 造血幹細胞の生着まで
移植した造血幹細胞由来の血液細胞が体内に根付くことを「生着(せいちゃく)」と呼び、通常、自家移植では2週間程度、同種移植では2~4週間を要します。移植前処置後、生着までは白血球が著しく減り、感染症を起こすリスクが高い時期です。抗生物質による治療や、赤血球や血小板の輸血が必要となります。また、胃や腸の粘膜に傷がつき、口やのどの痛みや食欲低下・下痢が起こります。
看護師
生着までは、発熱や粘膜障害による疼痛などお体の状態の変化を来しやすい時期です。治療に伴う苦痛を最小限にとどめ、安全に移植治療が受けられるように、移植に伴う合併症の早期発見につとめます。感染予防に留意し、口腔・皮膚等全身の観察を行い、必要な支援を行います。
歯科医師・歯科衛生士
口腔内の衛生管理は血球減少期の感染予防に大切です。クリーンルームの中でも定期的に口腔内衛生管理、口腔内清掃を行います。
⑨ 移植後早期合併症の管理
通常、自家移植では、生着後1~2週間程度で、退院が可能な程度にまで体調が回復します。一方、同種移植では生着後も特有の合併症が起こりやすく、その程度に応じ、さらに1~3ヶ月程度の入院が必要となります。
移植担当医
(同種移植の場合)
血液を作る力が回復した後も、同種移植後特有の合併症である急性移植片対宿主病(GVHD)やウイルス感染症の発症に注意して、お薬を調節します。合併症が落ち着いてきた時期から退院を目指した準備を開始し、食事を安定して食べられるようになれば、点滴でのお薬が徐々に内服に変更になります。
移植担当医
退院後の生活を目指して、リハビリテーションを継続して行います。患者さんの体力、お体の状態に合わせたリハビリテーションの計画を策定しています。
⑩ 退院
病棟看護師
退院が近くなると、患者さまご自身が感染予防や副作用への対処ができるよう退院後の生活について指導をしていきます。
薬剤師
免疫抑制薬など大切な薬の飲み間違いが無いよう、服薬指導を行います。また薬の飲み合わせ、特に免疫抑制薬との飲み合わせなどのご質問にお答えします。
⑪ 退院後フォローアップ外来
主治医の定期外来に加えて、長期フォローアップ外来を定期的に受診していただき、長期的な合併症などを管理していきます。
外来主治医
退院後もしばらくは1〜2週間ごと、落ち着いてくると約4週間ごとの外来受診になります。移植後2〜3か月あたりから慢性GVHDが発症する可能性があります。引き続きGVHDの悪化、感染症の発症に注意しながら、免疫抑制薬をゆっくり減量し、最終的には中止することを目標とします。
長期フォローアップ外来
(LTFU外来)看護師
移植後長期フォローアップ外来(LTFU外来)にて、体調や生活面に関するご相談に応じて、継続的な支援を行っています。LTFU外来では、感染対策や生活指導、GVHD症状の確認、ワクチン接種のタイミングの案内、その他、二次がん、性腺機能障害などの晩期合併症への対応、その他の職種への相談の調整などを行います。
外来リハビリテーション
退院後、外来リハビリテーションを積極的に行っており、心身の両面から患者さんの社会復帰をサポートしています。
広島市内協力診療クリニックとの連携
広島市内協力診療クリニックと連携し、移植後ワクチン接種や生活習慣病対策などを計画的に行っています。